私立中高一貫校教員。社会科担当。


by めがね

大学入試の論述問題を利用したアクティブラーニング型授業

 これまでも日本の歴史教育は暗記偏重だという問題意識に基づいた、論考や実践が積み上げられたきたが、難関私立大学入試において些末な知識が要求されるという「現実」により、なかなか中等教育における歴史教育の実態が変わらないという状況が続いてきた。歴史教育が変わらない要因には、鳥越康彦や小川幸司が指摘しているように、歴史教師が自分たちが教わってきた方法での教育を検証することなしに再生産することで、「苦役への道」を「世界史教師」がしきつめているという現状も考えられる。

しかし、近年、歴史総合の設定、「アクティブ・ラーニング」の推進、大学入試共通テスト実施などの入試改革、高大連携歴史教育研究会による用語精選の動きなど、日本の歴史教育を暗記偏重の教育から、いわゆる歴史的思考力を育成する教育に変更する動きを後押しするような大きな潮流がうまれている。このような潮流に参画する実践を行うという筆者の問題意識から、上記テーマについて研究を進めた。言い換えれば、コンテンツばかりに注目してきた歴史教育を、コンテンツの獲得とコンピテンシーの育成を両立する歴史教育に転換する試みである。

思考力育成型の授業実践を進める上で主な課題として筆者が想定するのは、まず、授業中にグループワークなどの時間をとると、限られた授業時間で必要な用語をすべて説明することができないというものである。このことは、思考力育成型の授業実践に対して大学入試の「現実」を重視する論者は、しばしば入試に出る内容を網羅できないというお決まりの批判を行うことによく表れている。

この一つ目の課題は、近年の入試改革の動き・用語精選の動きに期待するとともに、思考力育成型の授業の中で生徒が主体性を身につけていくことで解決に近づいていくのではないか。主体性が身につけば、適切な教材を与えていくことで、入試に必要な知識を自分で獲得していくことができるはずである。かなりの数の歴史用語が、プリント穴埋めになっていて、それを埋めながら教員がひと言コメントをつけるだけで、その用語を教えたということになっている現状を考えると、アリバイ作りにしかなっていない網羅性にこだわることをやめ、適切に課題を与える方法や、生徒が主体的に学習に取り組む方法を研究することが重要である。

次は、より本質的な課題で、思考力育成型の授業を進めるためには、どうしても高校教科書レベルで解決できる良質な問いが必要であるということである。多忙を極める教員の実態を考えると、授業すべての単元で、教員が独力で良質な問いを毎回設定していくということは、かなりの労力を要することになる。

 この二つ目の課題への解決策の一つが、大学入試で出題される論述問題を授業での問いにつかうということである。また、授業で論述問題を扱い、論述問題への対応力を養いながら知識を得ていくということは、知識の獲得と論述力の育成を別々に行うのではなく同時並行で行えるため、通史の授業とは別に行う論述対策の時間を減らすことができる。つまり、一つ目の授業時間不足という課題にも、対応することができる。

 筆者は、論述問題を授業に生かす研究をすすめるため、春から夏にかけて以下の二つの研究会・講習会に参加した。一つ目は、328日に東京外国語大学で開かれた「入試問題を歴史教育に生かす」という研究会である。そこでは、都立駒場高校の津野田興一先生が、「論述入試問題を利用した高校世界史の講習について」をテーマに発表された。津野田先生の実践は、あくまで入試対策的に講習で入試問題を扱う方法を説いたものであったため、アクティブラーニング型の授業ですぐ追試できる内容ではないが、入試問題の選び方は参考になった。

 二つ目は、84日に河合塾池袋校で開かれた「世界史論述対策」という教員向けの講習会である。担当の坂本新一先生の模擬授業は、ある程度、生徒が教科書や高校の授業などで流れをつかんでいることが前提になっているものの、基礎知識を説明してから論述問題に取り組むという形式にはなっておらず、論述問題の解説をしながらテキストで基本知識を確認し、最後に採点基準などを提示する形式だった。このような授業が成立しているということは、論述問題を解く前提として基礎知識の説明が必ず必要なわけではなく、問題の解説部分をグループ作業に置き換える仕組みを作ることで、問題を解く過程で、生徒たち自身で知識を確認しながら解答を考えるということができることを示しているように考える。


 
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by bbex33312 | 2018-09-02 23:16 | エッセイ